5人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
「な、なぜここにシエラ姫が?!」
「とにかく、魔徒の注意をこちらに戻すんだ!」
動ける兵たちは獣めがけて矢を放ったり、剣や槍を投げたりするが、そのすべては林の木に邪魔され、少女と獣の姿が小さくなっていく。
「ど、どうすんだよ、シエラ姫が・・」
「と、とにかく、追うぞ!」
兵たちがどうしようもなく、走り出そうとしたとき、
「あいつらは俺に任せておけ」
兵たちの傍に、新たに一人の男が現れる。
短い黒髪に深緑の瞳を持つ男はそれだけ言うと、肩にかけていた荷物を放って手ぶらで駆け出した。
その速さは異常。
まるで風のように駆け去った男の姿に、兵たちは安どの表情を浮かべた。
シエラは兄であるクリストのもとを目指して馬を駆けさせていた。この魔徒の大きさなら、クリストの二、三撃で倒せるはずだからだ。
急所を突かない限り、普通の武器では倒せないこの黒い獣は、魔の遣いとされ、『魔徒』と呼ばれていた。
魔徒は突然現れ、人や動物を襲う。
今回も、王都近くのこの林で魔徒の出現が確認され、王城から討伐部隊が派遣された。ちなみにシエラはこっそりと紛れ込んで無断でついてきたのだが。
シエラがちらりと後ろを確認すると、魔徒との距離がさっきよりも縮まっていた。魔徒と馬では、魔徒にもよるが、たいてい馬の方が速い。だが、林の中は、シエラが思っていたよりもずっと駆け辛く、このままでは追いつかれてしまう。
でも、これ以上速度を上げれば馬をコントロールできなくなる。
シエラは歯を食いしばった。
最初のコメントを投稿しよう!