王女は勇者の夢を見る

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「な、なぜここにシエラ姫が?!」 「とにかく、魔徒の注意をこちらに戻すんだ!」  動ける兵たちは獣めがけて矢を放ったり、剣や槍を投げたりするが、そのすべては林の木に邪魔され、少女と獣の姿が小さくなっていく。 「ど、どうすんだよ、シエラ姫が・・」 「と、とにかく、追うぞ!」  兵たちがどうしようもなく、走り出そうとしたとき、 「あいつらは俺に任せておけ」  兵たちの傍に、新たに一人の男が現れる。  短い黒髪に深緑の瞳を持つ男はそれだけ言うと、肩にかけていた荷物を放って手ぶらで駆け出した。  その速さは異常。  まるで風のように駆け去った男の姿に、兵たちは安どの表情を浮かべた。  シエラは兄であるクリストのもとを目指して馬を駆けさせていた。この魔徒の大きさなら、クリストの二、三撃で倒せるはずだからだ。  急所を突かない限り、普通の武器では倒せないこの黒い獣は、魔の遣いとされ、『魔徒』と呼ばれていた。  魔徒は突然現れ、人や動物を襲う。  今回も、王都近くのこの林で魔徒の出現が確認され、王城から討伐部隊が派遣された。ちなみにシエラはこっそりと紛れ込んで無断でついてきたのだが。  シエラがちらりと後ろを確認すると、魔徒との距離がさっきよりも縮まっていた。魔徒と馬では、魔徒にもよるが、たいてい馬の方が速い。だが、林の中は、シエラが思っていたよりもずっと駆け辛く、このままでは追いつかれてしまう。  でも、これ以上速度を上げれば馬をコントロールできなくなる。  シエラは歯を食いしばった。
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