王女は勇者の夢を見る

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 あきらめちゃダメ。ここであきらめる者が、勇者になれるわけがない!  日頃の特訓の成果を発揮するチャンスよ!  シエラは徐々に加速させていく。木の枝もギリギリのところでかいくぐる。  しかし、いくつ目かの枝をよけたとき、シエラはバランスを崩してしまい、そのまま馬の上から放り出された。 「いったぁ・・」  何とか受け身をとって大事は避けたが、木の根や石などの凸凹に、地味に体が痛んだ。  それでもシエラはすぐに立ち上がって、その場から飛び退る。その直後、シエラが今までいた場所に魔徒の牙が突き刺さった。  シエラは魔徒を警戒しながら辺りを見まわし、折れて先のとがった枝を拾った。武器は馬に括り付けていたので、武器になりそうなものはこれぐらいしかない。  シエラは深呼吸して、枝を強く握りしめる。 「キエンだって、最初は枝で魔徒を倒したのよ。私だってできる!」  自分を奮い立たせるように叫んで、魔徒を睨み据えたとき、 「できるわけねぇだろ」  声が上から降ってきた。  見上げれば、ただでさえ巨体な魔徒の上空に男がいた。跳躍にしてはあまりにも高すぎる。  だが、シエラはそんなことをやってしまえる男を一人知っていた。 「キエン!」  シエラは歓喜の声で彼の名を呼ぶ。  キエンと呼ばれた男が、自身の胸の前に手をかざす。すると胸から温かな光を放つ剣の柄が現れて、キエンはその柄を握ると剣を体内から引き抜いた。  そして、横一閃。光が魔徒を二つに分ける。  光の剣に裂かれた魔徒は、黒い煙となって消滅し、キエンはその煙をすり抜けて地面に着地した。
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