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帽子屋屋敷を出たアリスは自身が滞在する春の街を歩いていた。
インクが切れる手前だから買って帰ろう、と思い立ち、店の方へ足を進めれば、彼女の肩を何者かがポン、と叩く。
「なんじゃ!城におらぬと思ったらおまえも来ていたのか!」
楽しげな声で普段着ているドレスではなく会合に着ていたスーツをその身に纏ったハートの女王、ビバルディである。
「ビバルディ!?」
まさかビバルディだとは思わず、声を上げるアリスにビバルディは続ける。
「どうせならわらわと一緒に見よう」
「見る?」
彼女の言葉は不可解だが、理解したことは従者がいないのでお忍びの外出であること。
「ん?知らずに来ておったか」
やはり彼女の言ってることがわからず、首を傾げればふふ、とビバルディは笑う。
カフェのテラスでアリスはその訳を知る。
「サーカスじゃ!」
「すごい・・・!!」
「本番はもっとすごいぞ」
何かを催さなければならないこの世界のルールで、このエイプリル・シーズンではサーカスが行われる。
「あれ?ビバルディ、にそっちは噂の余所者ちゃん?」
キョトリ、とした声が二人の耳に届く。
声のした方を見ればアリスからすれば見覚えのない“顔”。
顔があるということは役持ちである、と学んでいるアリスは
「はじめまして、アリス=リデルです」
と名乗る。
「うん、はじめまして。あたしはペルネーラ=エイグリア。よろしくね」
「なんじゃ、ペルネーラも来ておったか」
「気分転換に来たら宣伝パレードに来たからさ、高見の見物だよ。アリスも、ジョーカーのサーカスは純粋に楽しむんだよ?」
仲の良さげな二人の様子を見るに、敵対関係ではないことを推測するが、ジョーカー、という名は聞き覚えがない。
パレードを見ながら談笑する二人からパレードへと目を移せば瞳に映る二つの“顔”。
笑うこともせず、ただ、穏やかに、緩やかな表情をした一組の男女から、何故だかわからないがアリスは目が離せなくなった。
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