ご相伴に預かります

3/9
前へ
/24ページ
次へ
ある日曜の夕方、スーパーから買い物を終えて帰ってくると、玄関でばったりマサヒロに会った。 スーツ姿だ。 「あれ、今日も仕事だったの?」 「ちょっと、入居者の方と会ったりで。…カスミさん、今日は?」 「ん?今日は自炊日」 私はエコバッグをがさがさと振ってみせた。 「お刺身買ってきちゃったから飲みには行けないわー。ごめんね」 「そうですかー…」 いいなあ、とマサヒロはバッグをじっと見る。 「なに?」 「カスミさん、俺の分も」 「はい?」 マサヒロはちょっとかがみこんで私をじっと見た。 キレイな顔のなかの、ちょっと色素の薄い瞳が、こちらを見つめてくる。 「なによ?」 「俺も食べたい。腹へったんですよ。コンビニ弁当飽きたし」 「何いってんのよ。知りませんよ」 「カスミさーん…」 マサヒロは哀しげな顔で首を傾げる。 いかん、なんだこれ、ビクターの犬みたいだ。 「…て言ったって、すぐになんてごはん出来ないわよ」 「大丈夫です!俺も仕事まだ残ってるんで!」 マサヒロは、ぱっと一転、光るような笑顔を見せた。 …負けた。 「あーもう、わかったよ…ただ、大したもんは作らないからね?不味くても責任なんかとらないし文句も受け付けないわよ?」 半ばヤケクソでそう念を押すと、はいっ!とマサヒロは嬉しそうに頷き、 「じゃ、俺、急いで仕事片付けてきますね!」といそいそと身を返した。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加