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ある日曜の夕方、スーパーから買い物を終えて帰ってくると、玄関でばったりマサヒロに会った。
スーツ姿だ。
「あれ、今日も仕事だったの?」
「ちょっと、入居者の方と会ったりで。…カスミさん、今日は?」
「ん?今日は自炊日」
私はエコバッグをがさがさと振ってみせた。
「お刺身買ってきちゃったから飲みには行けないわー。ごめんね」
「そうですかー…」
いいなあ、とマサヒロはバッグをじっと見る。
「なに?」
「カスミさん、俺の分も」
「はい?」
マサヒロはちょっとかがみこんで私をじっと見た。
キレイな顔のなかの、ちょっと色素の薄い瞳が、こちらを見つめてくる。
「なによ?」
「俺も食べたい。腹へったんですよ。コンビニ弁当飽きたし」
「何いってんのよ。知りませんよ」
「カスミさーん…」
マサヒロは哀しげな顔で首を傾げる。
いかん、なんだこれ、ビクターの犬みたいだ。
「…て言ったって、すぐになんてごはん出来ないわよ」
「大丈夫です!俺も仕事まだ残ってるんで!」
マサヒロは、ぱっと一転、光るような笑顔を見せた。
…負けた。
「あーもう、わかったよ…ただ、大したもんは作らないからね?不味くても責任なんかとらないし文句も受け付けないわよ?」
半ばヤケクソでそう念を押すと、はいっ!とマサヒロは嬉しそうに頷き、
「じゃ、俺、急いで仕事片付けてきますね!」といそいそと身を返した。
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