引越し希望

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「引越したいなー」 たまに帰ってきた実家のコタツでごろんとしながら私は呟いた。 「あーねえちゃんちボロいもんね」 弟がみかんを剥きながら相槌を打つ。 「悪かったね…」 引っ越しなよ、あそこ築何年だよ、場所も悪いしさ、と煽る弟に私は訴えた。 「でも不動産屋行くのってなんか苦手なんだもんー」 すると弟はあ、と声をあげた。 「つーかさあ、マサヒロ覚えてる、マサヒロ」 「マサヒロ?」 突然出てきた名前に私はきょとんとした。 「誰?」 「オレの小学校んときの友達。よくうちに来てたじゃん。つーかねえちゃんがクソゲー無理矢理クリアさせてた」 「あーあー!」 思い出した。 私が中2のとき、当時好きだった男の子がゲームを貸してくれた。しかし元々ゲームをそんなにやらない私はクリアすることが出来ず、2つ下の弟に頼んでも弟はこのゲームつまんねえ、とか言ってろくにやってはくれなかった。でもせっかく大好きな彼が貸してくれたゲームをクリアしないわけにはいかないと思った私は、たまたまうちに遊びに来ていた弟の友達を捕まえ、無理矢理ゲームをクリアさせたのだった。 マサヒロとは、その子だ。 「あのオタクっぽい子ね!」 「オタクっぽいって…それはねえちゃんがゲームやらせたという記憶に基づく捏造じゃないのか…。マサヒロはオタクじゃなかったぞ」 「じゃーネクラっぽい。だってやりそうだからゲーム頼んだんだしー、やってる間も全然喋んなかった気がするもん。…で、そのネクラマサヒロがどーかしたの?」 ネクラマサヒロってひでえな、と弟はみかんを口に放り込んだ。 「あいつさー、今親の不動産屋継いでてさー、マンションとか扱ってんの。そゆの探すなら相談乗るよって言ってたぞー」 「ほんと?」 私はコタツから身を起こした。 不動産屋はこれまでにも何回か行っているが、当たりが悪いのか、あまりこの担当者はいい!と思えたことがなかった。なんだかいつも騙されている気になる。 でも、あのネクラマサヒロなら安心に違いない。それに、親の不動産屋を継いだということなら、きっとそこのトップだ。下っ端より色々融通も効くのではなかろうか。 そんな打算を胸に私は弟を見つめた。 「お願いしたいかも!うんと、新しくて、便利で、安いとこを!」 「なんつーワガママな希望だよそれ」 弟は呆れ顔をしながら携帯を手にとった。
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