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―――遮光カーテンが施された部屋に、若い男女が佇んでいた。二人は青白い光に包まれている。男は女に、何やら話し掛ける。
「分かってる。自分自身の事だもの」
普段、感情を表に出さない男は、その言葉を聞いてフッと笑う。再び、男は女に話し掛ける。どうやら男の声だけは聞こえない様子。
聞き取れない程小さな声なのか、それとも何かの力が働いて男の声を消しているのか。
「任せて。帰ってくる時はこれに乗ってくればいいのね?」
女は、男の手の中にある物体を指差した。こくん、と男が頷く。
「でも、本当に乗れるのかしら?だってこれ…」
女の言葉を遮って、男がたしなめるように言う。
「わ、分かったわよ。でも良かった。あの時以来あなたの感情が増えて、より素敵になったわ」
男は照れながらも冷静な表情を崩さず、女に催促する。
「はーい」
男の姿がなければ、女が電話をしている最中か、霊と会話しているように見える。女が男の手にある物体を触ると、それまで小さく仄かな青白い光が強みを増し、女の全身を包む。
男が物体に行き先を告げると、女は光と共に消え去った。しばらく女が去った暗い室内を眺めていたが、遮光カーテンと窓を開け、夜を待つ朱色の空に向かって男は呟く。
「頼んだぞ。間違った方向へ行かないように見守ってくれ」
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