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「…えっと、質問するまでもないと思いますが、この部屋はやめときますよね?」
井上が気まずそうにたずねる。
ずっとチラシで見続けていた部屋。
受験期に「あの部屋であの大学に通うんだ」と励みにし続けた部屋。
その部屋を諦めたくはなかった。
でも、
「…はい。別のところが…いい…です。」
意識と関係なく、涙が溢れてきてしまう。
「すみません。では、別の物件に行きましょうか?」
「いえ…また今度、改めて、という形でいいですか。」
井上の申し出を断って、陽菜は帰る旨を伝える。
「そうですか。送ります。」
「ありがとうございます。」
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