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君と出会ったのは、とある春のこと。
「わぁー、きれい!」
たくさんの花びらが咲き誇り、風に舞っていた。
僕が下を見下ろすと、君も上を見上げていて
だけど、その目は僕を見ていたわけではないことを知っていた。
高校の4号棟の裏。桜の木のてっぺんは2階の生物室くらいの高さで、3階の物理室からは完全に見下ろせる此処は、普段は誰も来ない場所だった。
一直線に並んだ桜の後ろはフェンスで囲まれていて、それは道に沿って設置されている。しかし、裏道であるせいか登下校時以外はほとんど人は通らないし、4号棟と3号棟の陰になっている。
生物室や物理室だって普段、授業の時くらいしか使用しない。とても寂しい場所のはずだった。
ところがその少女は、その日から毎日来るようになった。幹の下に広がる芝生に腰掛け、時には弁当を食べ、時には本を読んでいた。
その大きい目。栗毛色の髪。愛らしい仕草。僕は彼女が来てから毎日が楽しくなり、彼女が喜ぶことをしたいと思うようになった。
桜が散って寂しそうな彼女には、木陰をプレゼントした。
そうすると彼女は昼休み、気持ちよさそうにうとうとするんだ。
僕はたぶん、彼女のことが好きだったんだと思う。
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