イカロスの翼

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「それ、イカロス?」 石造りの道路に描かれた絵を見下ろすと、少年は大きな緑色の目を見張った。 「父さんよ」 喪服も着ずにどこから来た子だろう? 十歳のマリアはそう訝りつつ、目にかかる亜麻(あま)色の前髪を煩わしげに払った。 そして、黒服の袖が汚れるのも構わずチョークで、路地の絵に雲を描き加えていく。 「天使になってお空を飛んでるの」 「その羽じゃ、お日様に溶けそうじゃないか」 少年は林檎(りんご)の様に赤い唇をわずかに尖らせる。 「うるさい」 マリアは亜麻色の(ほそ)い前髪の下から、この北国の春空の色に似た薄い青の目できっと相手を睨みつける。 しかし、少年は意に介する様子も無く、すぐ隣に屈んできた。
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