イカロスの翼

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「本物の羽ってこんな感じだよ」 少年は左のポケットから(てのひら)ほどの大きさの白い羽を取り出す。 雪の様に白い羽の奥で、エメラルドに似た、円らな目がちかりと瞬いた。 「僕ならこう描くな」 言いながら、少年は右のポケットからチョークを取り出して、絵の中の父親の背に描き加える。 「ちょっと、勝手に描かないでよ」 マリアも小さな口を尖らせた。こちらは林檎の実というより、むしろ花びらに近い、淡い桃色の唇である。 「だってこの人は天使なんだろ」 少年は右手のチョークを動かす一方で、左手に持った羽を裏返したり、また表に返したりして検分しつつ、まじめな顔で説く。 「溶けて落っこちそうな羽にしちゃいけないよ」 少年は今度は羽の向きを横にして見直すと、カッカッとチョークの音を辺りに響かせた。 「落っこちそうって……」 マリアは言い掛けたまま口ごもる。 こいつは何てことを言い出すんだ。
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