28人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「本物の羽ってこんな感じだよ」
少年は左のポケットから掌ほどの大きさの白い羽を取り出す。
雪の様に白い羽の奥で、エメラルドに似た、円らな目がちかりと瞬いた。
「僕ならこう描くな」
言いながら、少年は右のポケットからチョークを取り出して、絵の中の父親の背に描き加える。
「ちょっと、勝手に描かないでよ」
マリアも小さな口を尖らせた。こちらは林檎の実というより、むしろ花びらに近い、淡い桃色の唇である。
「だってこの人は天使なんだろ」
少年は右手のチョークを動かす一方で、左手に持った羽を裏返したり、また表に返したりして検分しつつ、まじめな顔で説く。
「溶けて落っこちそうな羽にしちゃいけないよ」
少年は今度は羽の向きを横にして見直すと、カッカッとチョークの音を辺りに響かせた。
「落っこちそうって……」
マリアは言い掛けたまま口ごもる。
こいつは何てことを言い出すんだ。
最初のコメントを投稿しよう!