0人が本棚に入れています
本棚に追加
俺はその懐かしく赤い箱を開け、茶色いフィルターのタバコを一本とりだし、そっと口にくわえた。
カチッカチッ
電気ライターは一度空振りして、二度目に綺麗な炎を灯した。
その炎にタバコを近づけ、息を目一杯吸い込むと、タバコの先端にしっかりと火種が生まれ、細い煙がくゆりくゆりと青い空へと昇っていった。
俺の肺には煙が充満して、肺から血中に煙が溶け込み、身体中へ行き渡るのがわかる。
そしてゆっくりと煙を吐き出す。
フゥーーーーーーッ
「美味しそうに吸うね。」
孫は優しく笑った。
くわえたタバコの先端から細い煙がくゆりくゆりと昇っていくが、その煙を見ていると、不意に俺の爺さんの事を思い出してしまった。
意識は煙の向こう側へ吸い込まれいくような感覚で、過去の景色へ誘った。
俺は物心付いたときには爺さんと二人暮らしだった。
爺さんは俺の父方の祖父で、町工場の工場長で腕っぷしの太い豪快な人で、厳しい人だったけど、とっても優しい人だった。
俺の両親は俺が生まれてから、俺を連れて旅行に行っていたところで交通事故に逢い帰らぬ人になった。
だから両親が居ないことが当たり前だった。
爺さんがいるから寂しいこともなかった。
爺さんはヘビースモーカーでいつもタバコをくわえていた。
銘柄は『ラーク』だった。
タバコを吸う爺さんを俺が見ていると、爺さんは決まってこう言った。
「お前はこんなもん吸うんじゃねぇぞ、吸うとしても二十歳からだ。そうじゃないとな、吸う意味なんてないんだ。」
爺さんの言うことが理解できていなかったけど、その頃の俺はタバコなんて吸わないと思っていたから右から左に聞き流していた。
最初のコメントを投稿しよう!