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幼少期は両親が居ないことなんかで色々あった。
クラスメイトと派手に喧嘩したり、些細な問題を起こしたりと、その度、爺さんが学校に来ては先生に謝っていた。
でも爺さんはその事に関して俺を叱責したことは一度もなかった。
「喧嘩するのは良いが、勝ったんだろうな?」
逆にこんなことを言う始末だ。
だからかもしれないけど、俺は爺さんにだけは迷惑をかけたくなかった。
そう思うようになってからは喧嘩もしなくなり、勉強もちゃんとして、友達も増えた。
そうなると両親が居ないこ
とで誰かと衝突することもなくなった。
「お前は賢いな。」
爺さんは俺のテストの成績を見て、嬉しそうに頭を撫でてくれた。
タバコを吸いながら、顔をくしゃくしゃにして喜ぶ顔を見るのが本当に好きだった。
中学に上がり、高校に入る頃には爺さんの工場の手伝いを良くするようになった。
爺さんの怒号が飛ぶ工場は、さながら戦場の様だけど、気が引き締まると言うか、背筋が延びて目の前の仕事に正面から取り組めた。
みんなタバコをくゆらせながら、汗を流して、金属のぶつかり合う音が、その格好良さを一層引き立たせていた。
いつか俺もこの景色の一つになりたいと思うようになっていた。
だから高校も地元の工業高校に進学して、必死で機械工学について学んだ。
俺が高校を卒業して、就職すると言うときに爺さんは倒れた。
仕事中に倒れて、そのまま病院に運ばれて、そのまま息を引き取った。
脳梗塞だった。
医者はタバコのせいだと言い放ったが、その一言でかたをつけたのが無性に腹が立って、医者に掴み掛かりそうになった。
でもその手前でやめた。
爺さんの声が聞こえた気がしたから・・・
「お前は俺に似なくてよかった。お前は賢いから、なんでもできる。自分の生き方をいくらでも選べる。強く生きろよ。」
生前に言っていた言葉だ。
その場に泣き崩れてしまった。
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