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気付けば二十歳の誕生日を迎えていた。
実は待ちに待った二十歳だった。
やっとタバコを吸えると思うとワクワクした。
爺さんの様になれたら良いなと、買ったのはラークだった。
真っ赤なパッケージがどうも目を引いて、記憶の中のタバコと言えばコレしかなかったのだ。
はじめて吸ったタバコは、苦くて苦くて、なぜか涙が出て、止まらなかった。
爺さんのくしゃくしゃの笑顔を思い出してしまった。
思い出の爺さんもやっぱりくわえタバコだった。
それからというもの、タバコは肌身離さず持ち歩いた。
どんなに大変な時もコレを吸えば乗り越えられそうだった。
爺さんの力を借りているような心強さがあった。
俺の工場は業績もそこそこ潰れることもなく、利益を産むこともなく、食べて飲んで暮らす分には全然不自由しなかった。
それは近所の方々の応援のお陰でもある。
色々とひいきにしてくれるし、みんな爺さんの事も知っているし、俺の事も知っていて、本当に温かい町に住めて良かったと思う。
そして、俺が二十四になった頃だった。
それまで工場を守るために必死で働いていたけど、遠方からの発注もあ
り、今では腕利き工場として、ほんのちょっと有名になった。
だから、業績も延びてきていたが、俺は一人で運営していた。
やはり一人の方が気楽だし、工場がダメになったときは俺も一緒にダメになると覚悟を決めていたからで、そこに誰かを巻き込みたくなかった。
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