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そんなとき、俺はいつものように表でタバコをくゆらせていると、雑音混じりのエンジン音が遠くの方から聞こえてきた。
何時止まってもおかしくないだろうと思っていると、一際高い音の後にエンジン音が止まった。
俺は体が勝手に動くというか、無意識というか、工具を一式持って走り出した。
音がした辺りには、赤いクーパーが路肩に止まっていた。
明らかに年代物ではあるが、止まってしまうほど古い代物ではなさそうだ。
そのクーパーの隣には、女性がオロオロとしていた。
どうやらこの人がドライバーのようだ。
俺はてっきり渋いおっさんがドライバーだと思っていたから、若い女性だったことに驚いた。
踵の無い靴で、青いジーパン、袖の広がった服を着ていた。
目鼻立ちのしっかりした人で、はっきり言って綺麗な人だと思った。
ウェーブのかかった髪がよく似合っていた。
「どうしましたか?」
俺は息を整えてから話しかけた。
その女性は、驚いたように目を見開いた。
そりゃそうだろう、都合よく整備士が現れるのだから。
「車が止まっちゃったんです。」
まだ幼さの残る声で女性は言った。
恐らくエンジンだろう。
女性に指示を出して、エンジンルームの中まで見た。
工場まで運ばなければ直しようが無い状態だった。
女性にハンドルを持たせ、俺は後ろから車を押して、二時間かけて工場まで運んだ。
そして本格的に修理することとしたものの、修理をするよりエンジンそのものを載せ変える方が安く早く済むような状況だった。
その事を女性に伝えると、女性は大きな目を少し伏せた。
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