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わたしと、幽霊……つまり、春斗は、図書館を出る。
春斗の案内である道路に来た。
T字路で、『T』の横棒にあたる場所に林が広がっている。
交通量も多くない。
「……この曲がり角で、俺は車にはねられた」
その事を悲しむでも苦しむでもない、淡々とした口調で春斗は言った。
「今だに、信じられないんだけどね」
「そうなんだ……」
どうしてだろう。ここが嫌だ。
得体の知れない不安感と恐怖感でそわそわする。
交通事故が起こったと知ったからなのだろうか。
「その時、ある物を落としたんだ。それを捜したい」
「ある物……。どんなもの?」
「それが……」
春斗は肩をくすめて、苦笑した。
わたしは首を傾げる。
「覚えてないんだ。ごめん」
「え? 形も? 色も?」
「うん、残念ながら。でも、ここら辺にはないのは確かだから」
春斗はそう言って、アスファルトを見回した。
「多分、あすこだ」
林を春斗は指差すと、その中へ入っていく。
わたしもその後に続いた。
「あの、形も色もわからないんじゃ、捜しようがないんですけど!」
「それは、本当にすまん! 記憶がなくてさ……。二人で捜せばすぐ見つかるよ」
「そんな根拠がないことを……」
「俺が存在している時点でそういう根拠とかは意味がないと思わない?」
春斗は微笑みを浮かべた。
言い返す言葉がなくて、黙る。
「とにかくお願いだ!」
仏像を拝むように両手を合わせる春斗。
「わかったってば」
わたしは諦めて草を掻き分ける。
「ありがとう」
春斗も隣で同じように草を掻き分けはじめた。
幽霊でも、そういうことはできるんだ。
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