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「だから、こいつらは別にうちの飼い猫ってわけじゃないんだよ、一条。俺がどうこうしたわけじゃないくて、シラタマがそこにいるだけで勝手に猫が湧いてくるんだよ」
「ほうほう」
「だからもし仮にシラタマを一条の家に置けば、一条の家が猫だらけになるんだよ」
「うひゃー、ふかふかだよーっ! 可愛すぎるよーっ!」
……さて、花梨はどこまで俺の話を聞いてくれていたんでしょうか。
「まあ、いいんだけどさ。――そろそろまずいかな」
俺の言葉と同時に、頭上でシラタマが小さな声を上げた。「にゃ」と一声だけ。ぐーすか寝ていたくせに、肝心なことは聞いているようだ。
「えっ、あっ――きゃッ」
花梨が慌てたように叫ぶ。
彼女が抱きかかえていた三毛猫が、突然暴れ出したのだ。不意を突かれた花梨は抱きかかえていた手を放してしまい、解放された三毛猫はアスファルトの地面へと着地する。
三毛猫の着地と同時に変化が起きた。三毛猫をはじめとする猫たちが八方に散っていくのだ。鶴の一声とはまさにこれのことだろう。
「かずくん、これは一体全体どういうことなの?」
「どういうことなのかと言えば、まぁ猫が逃げたんだろうな」
「それは見れば分かるっつの。そんな状況説明をお願いした覚えはないんだよ」
「それは……あれだろ。一条、お前きっと嫌われたんだよ」
「……かずくんに?」
「いや、それは知らん」
男女二人が並んで登校というこれ以上無いような青春シチュで歩き続けている間に、すでに校門が見える距離まで来ていた。
シラタマは賢い猫だ。
三〇を超える猫を連れて登校すれば、俺がどんな目で見られるか理解している。そんなことをしてみろ、入学式が始まる前に停学を命じられるだろう。故に猫たちを解散させたのだ。
花梨は戸惑っているようだが、俺はシラタマと暮らし始めて短くない。この毛玉がこのくらいのことを成し遂げられることはもちろん知っている。
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