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「ん、そういえば」
「…………」
「……ん、そういえば」
「なにかなっ?」
いまだ戸惑って、というか猫がいなくなってしまったことに悲しみを隠しきれなく、俺の話を一向に聞いてくれなそうな花梨だったが、俺の頭上で再び眠ろうとしているシラタマを押し付けてやることで機嫌は直ったようだ。嫌そうな視線をシラタマが送ってきているが、気にせず嗤ってやる。シラタマとしては恩を仇で返されたような心境なのかもしれないが、普段から頭の上で居眠りをこかれているのだから、こちらとしても仇で返したくもなる。
「いや、これだけの数の猫を引き連れてたのに、なんか周りの目がイタくないって言うか……そもそも歩いている生徒が少ないっていうのももちろんあるんだろうけど、近寄ってきたのが一条だけってのはちょっと妙かなって」
「そりゃそうだよ。まー確かにお猫様の大行進ともなれば珍しいけどさ、そんなことを気にしてるほど彼らだって暇じゃないよ。もっとも、この時間にここにいる生徒たちなんて大したクラスの人じゃないんだろうけどさ」
「………………?」
はてなマークだった。
「え、なに、この時間ってまずい時間帯なの? 八時半までに登校って書類に書いてあったと思うんだけど」
美羽が手配してくれた書類を何度も確認したのだから間違いないはずだ。そして、定刻までまだ一五分以上余裕がある。……言うまでもなく“美羽が手配した”という点に不安は残るのだけれど。
「………………?」
はてなマークだった。
今度は花梨がはてなマークだった。
「そりゃあ、まあ、確かに始業の鐘が鳴るのは八時半だし、そもそも登校しろなんてきまりはないんだから、何時に登校しようと自由だけどさ。かずくんが何組かは知らないけど、普通、というより上位のクラスは、もうとっくに動き始めてるんじゃないかな?」
「……ああ、なるほど。部活とかそういうこと?」
そういえば中学校の卒業式の前にも部活をやってる熱心な奴らがいたなー、なんて懐かしんでみたが、花梨が浮かべるクエスチョンマークは増える一方だった。
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