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「は?」
思わず訊き返してしまった。
眠たかった頭が覚醒した。
耳を疑った。
いや、むしろおかしいのは俺の耳に違いない。そうさ、午前三時に電話が掛かってきたから、寝ぼけた頭で受話器を取らざるを得なかったのだ。俺の頭がきっとまだ寝ぼけていて、聞き間違えたに違いない。きっとそうだ。
『だーかーら、明日引っ越しするんだってば』
……受話器の向こうで、従姉が理解に苦しむ言葉を発している。
「まて、バカ」
『みう、バカじゃないもん』
「引っ越すって、え、明日?」
『うんっ』
笑顔で頷く従姉・美羽【みう】の顔が脳内に浮かんだ。思わずぐーパンしそうになった。
おかしいのは俺の頭じゃなかったようだ。
ああ、もう、なんでこの人が俺たちの保護者なんだろう。思わず涙が出そうだった。
「――っあ。分かったぞ、美羽姉【みうねえ】。明日はエイプリールフールだもんな。そっかそっか、危うく騙されるところだったよ。でも美羽姉、どうせ嘘つくならもうちょっと時間考えてくれよ。今何時だか分かってるだろ。っていうか、そもそも今日はまだ三月三一なんだから、嘘吐いちゃだめだろ」
一縷(いちる)の希望を託してみるものの、
「むぅ。美羽、嘘は嫌いだよ」
返答は予想通りの、あまり、というかすごく、理解したくない言葉だった。
「……できることなら、その先は聞きたくない」
「だーかーらー、美羽は嘘が嫌いだってばー。小さいころからずぅっっっっと言ってきたでしょ?」
……ですよね。
最後の希望は絶たれた。
「……俺、今年から高校生なんですけど?」
『知ってるよ?』
「去年、必死こいて受験勉強して高校決まったんですけど!」
『だから知ってるってば』
だからなんなの? とでも言いたいのだろうか。
「俺、あんだけ必死に勉強したのに高校行けないんですか」
引っ越し先にもよるだろうけど、入学予定だった高校には多分行けないよな。せっかく片思いのみーちゃんと同じ学校に行くために……いや、もう何も言うまい。さらばみーちゃん、さらば俺の初恋。
っていうか、このままでは高校生活を送ることすら危うい。
「明日から四月なんだぞ? 今からじゃ受け入れてくれる高校なんてないだろうし……」
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