Prologue:捨て猫

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 四月に引っ越すことが分かっているなら、前もって引っ越し先の高校を受験するのが普通だ。これから高校を探すとなると、『新入生』ではなく『転校生』ってことになるんじゃないだろうか。 『のん、のん♪ のーぷろぶれむなんだよ、かずくん』  カタカナ英語、と言うよりひらがな英語、とでも呼べばいいだろうか。柔らかすぎる発音で美羽が言った。 『二人の転校先はちゃんと考えてあるよ。先方にもちゃんと話は通ってる。だからそーゆー問題は気にしなくていいんだよ』  珍しく、本当に珍しく、従姉はそれなりに考えていた。 「美羽姉、なんだか保護者みたいだな」 『え、みうは二人の保護責任者だよ!?』  それから引っ越し先や転校先の諸々を話した美羽は最後に、 『ねえ、かずくん。嫌って言わないんだね』  少し寂しげに、悲しげに、そんなことを言った。 「はあ。引っ越しの話持ってきたのは美羽姉だろ? なんで美羽姉がそんな声出すんだよ」 『それは……』 「それにな、子供はお父さんとお母さんの言うことを聞かなきゃいけない、って小学校で習ったんだよ。他に理由なんかいるもんか」 『でも、みう。お母さんでも、お父さんでもないよ?』 「だけど、俺たちを引き取ってくれたのは美羽姉だけだよ」 『そうだよ。でも、そうだけど』 「この話はこれで終わり。明日には引っ越さなきゃならないんだろ? 香奈起こして、支度するよ」 『うん……。ごめんね、かずくん』  最後まで美羽の声は寂しげだった。  そしてその言葉の意味を知るまで、それほど時間はかからなかった。
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