First part:始業式

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 そんなことがあるわけないじゃないか。自慢じゃないが、勉強も運動も全国平均とほぼ同値。平均と差があるステータスなんて、入学当日から拳銃を向けられる程度の運の悪さくらいだろう。 「冗談でも悪ふざけでもなくね、キミは選ばれてしまったんだよ」  淡々と隼人は続ける。 「全国の中学三年生の素質を機械的に評価、数値化した上位一三〇名。キミはその中に選ばれたんだ」  一三〇人【、、、、】。  俺たち一年Z組の構成メンバーは五人【、、】。Z組があるのだから、仮にAからZまでのクラスがあるとして。  この数字はつまり、五人×二六クラス。二六個のアルファベットをクラスとして、それぞれに五人ずつ配置した数と等しい、ということか。  ……たったの? 「少子化傾向の日本とはいえども、中学生は一学年当たり一〇〇万人くらいはいる。つまり単純に一〇〇〇〇分の一の確率。キミは一〇〇〇〇分の一の天才に選ばれたんだ。喜んだっていいんだぜ?」  ふと、視界の隅の花梨がピクリと震えた。何か言うかと思ったが、彼女は口を開こうとはしなかった。 「……いや、でも。個人の才能の数値化なんて、大した意味は持たないだろ? 人間の能力なんてちょっとした状況の変化で簡単に変わっちゃうもんだと俺は思うけど……」 「確かに。キミの言うことには一理があるだろう。でもじゃあキミは、この数値化によって選ばれた一〇〇万分の第一位の天才が、一〇〇万分の第一〇〇万位の凡人よりも劣った才能を持つと思うかい?」 「いや、そりゃ……一位様の方が素晴らしい才能を持っているんだろうけどさ。……でもそれはやっぱり数値であって、現実にどんな状況でも、どんな側面から見ても第一位の方が優れてる保証はないだろ。この世に絶対はないんだ。一〇〇万位が優れる状況だってあるはずだ」 「……この世界に絶対はない、ね。そうだね。確かにこの世界に絶対だなんて物はないんだろう。なんとか波が手から出せるようになるかもしれないし、机の引き出しから現れたネコ型ロボットが貸してくれたドアがクラスメートのお風呂場に繋がっているかもしれない」  それはない、と心の中で。
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