First part:始業式

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 あはは、と花梨は気楽に笑う。こちらとしては冗談ではないのだけれど。 「ぼくとしても、その件については話しておきたいことがあるよ」  と、花梨がわざわざ起き上った理由を語る。もっともこの話題は彼女にとって、ベッドから起き上る程度の話題ではあるが、シラタマを手放すほどのものではないらしい。 「さっき言ってた、共通の目的ってやつか?」  花梨は素直に頷く。 「隼人くん、ぼくもキミの目的を確かめたい。確かにぼくと同じ目的を持つ生徒はいると思ってたよ、その数は少ないだろうけど。でもかずくんみたいな例外が一人とは限らないし。だからぼくはキミの口からキミがどうしたいのかを聞かせてほしい。それまでは、ぼくはキミを仲間だとは思えないよ」 「ははっ、そうなのかい? 僕はキミも一騎もそれなりに信用しているつもりなんだけど。クラスメートなんだし、疑ったって仕方ないじゃないか……とか言ってみるけどね、まあおちびちゃんの言うことはもっともだ。信用するか否かは、腹を割って話した後で十分だろうさ。――まあ、しかしだ、一条花梨君。キミはそれでも僕たち、いや僕に付いてきたね。差支えなければその理由を聞かせてもらえないかい?」 「キミが仲間ならこのまま一緒に仕事をする。キミが敵なら、ぼくが一人で片づける【、、、、】」 「……ふぅん。ははっ。まったく、キミが言うと冗談に聞こえないよ」  今の言葉で、隼人には何か違うことが伝わったらしい。 「ぼくはいつだって大真面目だよ」 「それは結構――だが、いいのかい? キミが一人で片づける、というのにはこの場で僕を片づける【、、、、】という意味を含めているんだろう? 殺されると分かっていて正直に事を話すほど僕は愚かじゃないよ。そしてキミには僕の嘘を見破る術(すべ)はない。それならば、この時点でこの話し合いに意味はなくなってはいないかい? 僕は本心がどうあれキミに殺されないようにする。僕はまだ死にたくないし、まだ死ぬわけにもいかないしね。ならばキミが僕の目的を問うことは意味のないことじゃないかい?」  つまり本心は明かさない、本心だと証明できるものがない、と隼人は言っている。腹の中【うち】はどうあれ、答える言葉は変わらないということだ。
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