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両親が死んだのは九年前だったか。
深夜の放火だった。
犯人は捕まったけれど、家は全焼。当時健在だった祖父、祖母、そして両親。俺と妹以外の全員が命を落とした。動機は忘れた。大した理由ではなかった気がする。
それにもかかわらず、幸か不幸か、俺たち兄妹(きょうだい)は生き残った。俺と妹は二人ぼっちになった。
少ないとはいえ親戚はいたけれど、俺たち兄妹を引き取ることを誰もが嫌がっている気配は、子供ながら感じ取っていた。今にして思えば、放火で家族を失った不幸な子供など引き取りたくない、とでも思われていたのだろう。そんな中、美羽姉こと東雲美羽【しののめみう】は、そんな後ろ向きな考えを軽々と蹴飛ばしてくれた。
以来俺は妹の香奈【かな】とともに『東雲』の姓を貰い、従姉【いとこ】の美羽と三人で暮らしている。
美羽は――俺から見ればどうしようもないくらバカなのに――優秀らしく、仕事でほとんど家にはいないけど、俺たち兄妹【きょうだい】に不自由のない暮らしをさせてくれている。感謝こそすれど、嫌悪などしているはずもない。
だから引っ越しくらい、美羽のやりたいようにさせてやればいい。
俺も香奈もそう思っていた。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「言うな、妹。分かってる。だが今兄は現状を整理中だ。故にそのツッコミはちょっと待ってほしい」
「それ、現実逃避だよ。それから一応言っておくけど、私だってコレを容認したわけじゃないよ」
「分かってる。俺もお前も常識人。異常なのはコレと美羽【あいつ】だ」
あの深夜の電話から一と三分の一日ほど。
四月一日、時間は正午を過ぎたあたり。
新居に着いた。
前もって送った荷物は先に届いていて、リビングに積まれた段ボールの山を玄関から見ることができた。
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