First part:始業式

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「――本気、なんだね」  花梨が目を開けた。 「いーよ、隼人くん。……うん、ぼくはキミを信じる。キミに力を貸すことにするよ」  花梨が隼人に近づいて、お互いに一言ずつの挨拶を交わす。 「壊そう、こんな場所」 「ああ、必ず」  たった一言のやり取りなのに、二人の言葉にはそれ以上の感情が溢れていた。  この学園を壊したい――そんな途方もない目標を語る言葉に含まれた感情が何なのか俺には分からなくて、もどかしかった。 「……なあ、ちょっと待ってくれよ」  置いていかないでくれ、そんな気持ちで口を開く。 「壊すって、どういうことだよ。お前らはこの学園を卒業したいんじゃなかったのかよ」 「どうもこうもないよ。この制度――“聖盾【アイギス】”なんて制度は腐ってる。あっちゃいけない制度なんだよ」 「おちびちゃんの言うとおりだ。僕もそう思ってこのクラスに入ることを志願した。Z組なら同じ志を持つ生徒がいる可能性が高いからね。仲間は多いほうがいい」 「腐ってるって……それにしたって相手は国家政府なんだろ? 壊すってどうやってだよ?」 「この学園を卒業すればいいんだよ」 「僕たちはこの学園を卒業する。そして“聖盾”として手に入れた富と力をもって、この制度を潰して見せる」  二人は当然という顔で答えたが、それは正しいことか? “聖盾”制度を壊すためにこの学園に入学するなんて、なんだか矛盾しているように思える。  そんな思索が表情に出ていたのだろうか、隼人にたしなめられる。 「まあ確かに、“聖盾”制度を壊すために“聖盾”としての権力を使うっていうのは、なんだか本末転倒のように思うかもしれないね。でもね、そうでもしないことには止められないんだよ。目には目を、じゃないけどさ。“聖盾”制度を壊すということは、少なからず“聖盾”を壊さなくてはならない。そして“聖盾”を壊すためには、最低限彼らと同じだけの力がなければ、ね。……さて、長くなったけど、二人の質問への答えはこんな感じでいいかな」
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