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いの一番に美羽の飼い猫であるシラタマをケージから出してやると、勢いよく飛び出して一足先にリビングに入っていく。
香奈が言った。
『大忙しだね、お兄ちゃんお兄ちゃん。新学期始まるまでに片づけ済むかなー』
『香奈がいるから大丈夫。片づけ得意だろ?』
仲の良い兄弟らしい談笑。ほんの数分前のこのビジョンが随分と昔に、なんて古典的な表現を使いたくなるほど遠くに思えた。
シラタマが鳴いた。
にゃーご。
急かされるまでもなく、急ぐわけでもなく、兄妹(きょうだい)はリビングへ進んだ。
――猫がいる。
一瞬だけそう思った。
我が家、唯一の飼い猫・シラタマと同じく、白いシルエットがそう誤認させたのだ。
だがもちろんそれが誤認だとすぐに気づく。
そのふさふさの耳は作りものだったし、しっぽは固定されて動かない。
そして何より、その猫は大きすぎた。
「で、コレ【、、】は何?」
とうとう香奈がつっこんだ。
だが、解答は持ち合わせていない。俺だってその台詞(せりふ)が言いたくて仕方がなかったのだから当然だ。
「美羽姉【みうねえ】の仕業であることだけは確かだな」
「それはわかってるよ」
当然でしょ、と香奈が付け足す。 リビングで猫が、否、猫みたいな人が寝転がっていた。
猫耳カチューシャ。
付け方のわからない作り物のしっぽ。
清楚な白のワンピースを着て寝転がる、長い髪の少女。四月上旬のこの季節でノースリーブのワンピースは少し寒そうだ。
窓側を向いているため、顔は見えない。
ただ、美人だなと思った。
顔を見る見ないの問題じゃなくて、後姿だけで、そう思わせるだけのものがあった。
「……綺麗な人だね」
香奈も同じように思ったようだ。強烈な男女両用のフェロモンでも出してるんだろうか。
「とりあえず、起こさないとだよな」
「……うん」
とにもかくにも起きてもらわねば話にならない。
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