First part:始業式

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  * * *  春風が桜を運んできた。  温かい風に乗った桜の花びらがたった一枚。その一枚が俺の嗅覚を刺激できるほどの香りを発しているわけではないのだろうが、条件反射というやつだろうか、俺の脳は春の薫りで満たされた。  どこから来たのだろう、とあたりを見回してみる。田舎とも都会とも言えないようなこの街に桜の木はあっただろうか。残念ながらあたりにそれらしい木を見つけることはできない。聖盾学園の始業日が早いことに、桜の開花日は関係なさそうだ。  春なのだから、入学シーズンなのだから、街中が桜でいっぱいになればいいと思うのに、現実の風景はあまりにも面白みに欠けていた。  摩天楼にはほど遠い、寂れたビル群。  歩道の植え込みに植えられた、名も知れぬ木々。  割れたガラス。  歩道を跨ぐ大型トラック。  ありふれた日常の一コマだった――。 「いやいや、日常ってことはないだろ……」 「ん? なんか言った、かずくん?」 「いや、何でもない」  ヘリコプターから降りた俺たちを待っていたのは、事故現場(?)だった。 「これ、装甲車ってやつか? 前半分突き刺さってるけど」 「その表現が正しいかどうかは議論の余地があるけど、トラックの前半分が銀行に突っ込んでるのは確かだね」  隼人が冷静に状況を説明する。
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