First part:始業式

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「見ての通り、あのトラックは銀行強盗の車だ」 「強盗? こんな朝っぱらからかよ」 「まだ九時半を過ぎたところだもんねー。それにこの銀行、開くの一一時からって書いてあるよ。開店まで待てとは言わないけど、まだこの時間じゃ誰もいないよね。せめて職員が来てからの方が、人質取れてうまくいくもんじゃないの?」 「武力行使でATMも金庫も、ついでに場を収めに来た警察も、みんな壊してしまおうって寸法なのかな。あまり頭のいいやり方とは思えないけれど、それを考えるのは今回の僕らの仕事じゃないからね。相手がバカなのは幸運だと思っておこう」 「……一応確認するけど、あれを解決するのが今日の授業ってことでいいんだよね?」  花梨が後ろ半分だけしか見えないトラックを指差す。 「え、授業?」  俺一人が驚きの声を上げた。 「当り前だろう、一騎。キミは一体何しに来たんだよ」  あまりにも隼人が当然であるかのように答えるので、一瞬自分が間違っているかのように思ってしまった。 「……いや、何をするか分からないから付いてきたんだけど」 「ああ、そう言えばそうだったね」  つい忘れてしまうね、と笑って隼人は続ける。 「さっきはぼかしたんだけど、僕らの授業はね、こういう事件を解決することなのさ」 「こういう……って、こういう?」  半壊した銀行を指差して尋ねると、二人は頷いた。 「いやいや、二人とも、おかしいだろ。銀行強盗だぞ? スリとかならまだしも――いや、スリが相手でも十分危険なんだけど。ほら、隼人もさっき言ってたじゃんか。武力行使してくるって。ATM壊すって……銃とか使うってことだろ? 学生がどうにかできる相手じゃないだろ」 「かずくんもなかなか慣れないねえ」 「慣れるわけないだろ!」  肩を竦める花梨にツッコむ。  こちとら銃を見たのも、向けられたたのも今日が初めてだっていうのに。 「一騎。授業はね、こういう警察が対応しきれない事件を解決することなんだよ」 「解決ったって……俺たちはただの子供で――」 「ただの子供、じゃあないよ。あくまで、天才だ」  
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