First part:始業式

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「ん? それはそうだろ。適材適所、キミだって僕だって目的があるんだ。成功率の高い作戦を選ぶのは当たり前だろ」 「……知ってるとは思うんだけどさ。ぼくはこういうの、好きじゃないよ」 「知っているさ、もちろん。でもキミが役に立てるのはこの手の仕事だけだってことも知ってる。それにこういう力仕事は貰える単位も多いんだ。だったら使わせてもらうよ。使えるものは使うさ。僕らに余裕はないんだからね」 「……だよ、ね」 「え、おい。一条が行くのか? 一人で?」  当然という顔で花梨は頷く。  当然ではあるけれども、嬉しくはない。望んでいるわけではない。そんな表情だった。 「いや、二人とも。おかしいだろ、女の子一人であんな場所に行くなんて……」 「あはっ。かずくん、キミはぼくが銀行強盗程度に負けると思ってるの? 心外だなー」  花梨の顔は全然笑っていない。  目尻が垂れて、口元が上がって、白い歯がちらっと見えるけど、ちっとも笑ってなんかいない。  笑っているように見えるとしたら、そいつの目は節穴だ。 「勝つとか負けるとか、そういう話じゃないだろ!? 女の子一人、そんなところに放り込めるかよッ!」 「それは違うよ、かずくん。キミも、ぼくも、隼人くんも。女である前に、男である前に、聖盾学園の生徒なんだよ。キミとぼく、どちらが戦場に適しているか。問題になっているのはそれだけなんだから。だから……隼人くんの指示は正しいんだよ」 「――ッ! でも……それは――違うだろ、そんなの! そんなの……」  俺の反論とも言えない戯言を聞き流して、花梨は―― 「しっかり見ててね、かずくん。キミがこれから先どんな“聖盾”になるのか、ぼくたちには知るよしもないけれど、――ぼくみたいな“聖盾”にならないことを祈って。ぼくのことを、しっかり見ていてね」  ――微笑んだ。  花梨の姿が割れたガラスの中に消えるまで、俺は一言も発することができなかった。  彼女のその表情を『微笑み』と感じてしまった自分が、憎くて仕方がなかった。
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