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* * *
「なあ、隼人。……大丈夫、なのか?」
花梨の姿が消えてからしばらくして、ようやく一言目を発することができた。
「何がさ?」
「だからその、……一条は、ちゃんと帰ってくる、よな?」
そんな不安を、隼人は鼻で笑う。
「ははっ。なんだいその質問は? 意味のない質問は嫌いだよ」
「意味がないって……」
「僕が帰ってくると言ったら帰ってくるわけじゃないだろ。僕が何を言おうと、キミは納得しない。結局今と同じようにウジウジしているだけさ」
確かにそうかもしれない。それでも、他に言い方があるだろうと反論したくなってしまう。
「僕は確かに、彼女が無事で帰ってくると信じているよ。確信している。でもね、これもさっきの東雲美羽の話と同じでさ、僕がどうこう言ったところでキミを納得させることなんてできないんだ。だからその質問に意味はないよ。僕が何と答えようとキミの不安は拭えない」
隼人の言葉は俺を冷たく突き放した。
隼人は花梨を一人で行かせたことを本当になんとも思っていないらしく、アスファルトに腰を下ろして、まるで学生が持つような鞄からノートパソコンを取り出した。
「……やっぱり、俺も――」
「やめておきなよ。死にたいのかい?」
奮ったつもりの小さすぎる勇気は、冷たい言葉にかき消されてしまう。
「月並みな言葉だけどね、それは蛮勇だよ」
「でも――ッ! その死ぬかもしれないところに、一条は一人でいるんだろ!? それをほっとけって言われたって……っ。そりゃ、俺が行ったって何かが変わるわけじゃないだろうさ! でも! それでもッ! じっとなんかしてらんねえよ、クラスメートが死ぬのを黙って見てなんかいられねえよッ!!」
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