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こちとら一般人、突然変異種【ミュータント】の従姉のようには振る舞えない。リビングの日向【ひなた】が気に入って、未確認生物の隣で寝転がる飼い猫は気楽なものだ。
「お昼寝中失礼しますよー。すいませーん、おきてくださーい」
香奈が肩を揺すって起こそうと試みる。
「あ……あと五ふ――以下略」
定番の、と見せかけた寝言を言い、白猫(仮)は寝返りをうった。
そしてその寝顔が、こちらに向いてしまった。
「うっわ……」
「これは……なんていうか。すごいね」
……思わず、息を呑んだ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、ほっぺ、摘まんであげようか?」
「せっかくだが遠慮する」
これが猫じゃないことは分かる。しっぽも耳も作りものだから。
じゃあ、これは人間か?
白い肌も。
艶やかな唇も。
流れ乱れる髪も。
その全てが完成されていて、不完全な人間には真似できないような美しさだった。
白猫(仮)では失礼もいいところだ。
白猫(真)でも弱い。
白猫(プラチナ)。うん、これくらいは言ってもいい気がする。
「それはもう、プラチナ製の白猫になっちゃってるよね」
妹のツッコミは的確だった。
「あ、お兄ちゃんお兄ちゃん。これ見て」
香奈が白猫(プラチナ)の首元を指差した。
「……首輪?」
「人間に首輪はないでしょ、お兄ちゃん。チョーカーだよ。これもやっぱりお姉ちゃんの仕業だよね。――それより、これ見て」
と、さらに指を近づけて、首輪【チョーカー】の先にぶら下がるプレートを指差した。
五センチ×一〇センチほどの小さな長方形。動物の足跡のようなシールがなんとも可愛らしく張り付けてある小さなプレートだった。
そしてその中央部に、ふにゃんとしたフォントで三文字。
『 み ぞ れ 』
ソレだけが書かれていた。
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