Prologue:捨て猫

6/7

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
 こちとら一般人、突然変異種【ミュータント】の従姉のようには振る舞えない。リビングの日向【ひなた】が気に入って、未確認生物の隣で寝転がる飼い猫は気楽なものだ。 「お昼寝中失礼しますよー。すいませーん、おきてくださーい」  香奈が肩を揺すって起こそうと試みる。 「あ……あと五ふ――以下略」  定番の、と見せかけた寝言を言い、白猫(仮)は寝返りをうった。  そしてその寝顔が、こちらに向いてしまった。 「うっわ……」 「これは……なんていうか。すごいね」  ……思わず、息を呑んだ。 「お兄ちゃんお兄ちゃん、ほっぺ、摘まんであげようか?」 「せっかくだが遠慮する」  これが猫じゃないことは分かる。しっぽも耳も作りものだから。  じゃあ、これは人間か?  白い肌も。  艶やかな唇も。  流れ乱れる髪も。  その全てが完成されていて、不完全な人間には真似できないような美しさだった。  白猫(仮)では失礼もいいところだ。  白猫(真)でも弱い。  白猫(プラチナ)。うん、これくらいは言ってもいい気がする。 「それはもう、プラチナ製の白猫になっちゃってるよね」  妹のツッコミは的確だった。 「あ、お兄ちゃんお兄ちゃん。これ見て」  香奈が白猫(プラチナ)の首元を指差した。 「……首輪?」 「人間に首輪はないでしょ、お兄ちゃん。チョーカーだよ。これもやっぱりお姉ちゃんの仕業だよね。――それより、これ見て」  と、さらに指を近づけて、首輪【チョーカー】の先にぶら下がるプレートを指差した。  五センチ×一〇センチほどの小さな長方形。動物の足跡のようなシールがなんとも可愛らしく張り付けてある小さなプレートだった。  そしてその中央部に、ふにゃんとしたフォントで三文字。 『 み ぞ れ 』  ソレだけが書かれていた。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加