First part:始業式

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 初めの一発だった。  何も言えずに言葉が口の中を泳いでいると、続いて馬の嘶きのごとく、けたたましく銃口が啼き出した。  戦いが、始まったのだ。 「………………」  出口の分からない魚のように、言葉は口内を泳ぎ続ける。  言わなければいけない言葉は分かっているはずなのに、言いたい台詞は決まっているはずなのに、開いた口から言葉は出てこなかった。 「その感情は、なくしちゃいけないものだよ」  恐怖を悟ったかのように、隼人は語る。 「死への恐怖ってっていうのはね、知能ある――別の言い方をすれば、未来を予想することのできる人間だけに許された根源的な感情だよ。本来失えるものじゃないし、何より失っていいものじゃないんだ。死を恐れるということは、ヒトが人間たる証拠なんだから。僕やキミのような特殊な人間は、いや、これは驕りだね。“聖盾”なんかじゃなくたって、時にヒトはそのことを忘れてしまう。人間は万能であるように感じてしまう。おちびちゃんは言っていたね。僕らは男である前に、女である前に、学園の生徒なんだと。彼女の言葉は確かに正しい。でも、僕たちは学園の生徒である前に一人の人間だよ。どんなに力を持っていたとしても、ホモ・サピエンスであることには変わりない。どんなに力を持っていたとしても、神でも悪魔でも、ましてや“聖盾”ですらない。僕らは天才ではあっても、まだただの子供なんだ」 「……そんなこと、言われるまでもない」  俺はきっと、この学園の誰よりも“聖盾【アイギス】”からかけ離れた存在だろうから。 「でも、だからって――」 「よし、できた」  相も変わらない議論を繰り返そうとする俺の声など気にも留めず、隼人は立ち上がった。 「……それは?」 「ん、これかい? これはね……いや、説明するより見てもらった方が早いか。一騎、ちょっとそのモニタを見ててごらん」  すっと右手で、つきさっきまでいじっていたノートパソコンを指差した。  ディスプレイは真っ黒で、屋外と言うこともあり一見電源は切れているように見えるが、点灯しているボタンがいくつかあるので起動していることは確からしい。
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