First part:始業式

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 ――葛城【かつらぎ】みぞれ。  それが我が家に転がりこんできた捨て猫の名前だそうだ。  日本人離れした白い肌、髪、瞳をもち、身長は香奈より少し大きいくらいだから多分一六〇くらい。体重は乙女の秘密だとして、スタイルはクラスメートの小学生【一条花梨】と比べるまでもなく良い。清楚なイメージの白い服を好んで着る。この部屋に寝転がっていたときに着けていた猫耳カチューシャは今でも携帯していて、ときどき着けているのを目にする。美羽に言われて着けていたそうだが、案外気に入っているらしい。一緒に着けていた尻尾の方はあまり見ないかも。首に着けていたチョーカーは、風呂の時以外は着けたまま。毎日をごろごろしたり、テレビを見たり、オンラインゲームをしたりして過ごしている。いわゆる、ニートに近い。好きな食べ物は甘いもの。嫌いな食べ物は辛いもの。好きなことは楽しいこと。嫌いなことは憂鬱なこと。性格は多分気まぐれ。猫という単語がしっくりくる。  以上が、葛城みぞれについて分かっていることのほぼ全てだった。  彼女がどういった経緯でうちに来て、俺たちと暮らしているのか、その真意は分からない。たった一度だけ連絡がとれた美羽は一言だけ、 『守ってあげて』  と言っていた。 『――東雲(しののめ)美羽(みう)。彼女は優秀な“聖盾(アイギス)”だ』  隼人の言葉が思い出される。  隼人の言うとおり、本当に美羽が“聖盾”だとするなら、みぞれの存在にも何かしらの理由があるんだろう。だとするならば、何かの存在からみぞれを守らなきゃいけないのだろうか。美羽ではなく、俺が。  パソコンのディスプレイがスクリーンセーバーに移り変わり、七色の線が幾何学模様を創り出す。昼ドラの終わったテレビでは、日本屈指の大型グループ企業である、カツラギ・グループの会長が亡くなったことを報道していた。覚えておいた方がよいかと思ったが、俺が覚えていなくていようがいまいが、どうせ隼人の耳には伝わっているだろうから、気にしないことにした。
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