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仰向けのシラタマの寝顔を見ていると気持ちが落ち着く。
この物語の主人公は東雲美羽。
みぞれはどこかの国のお姫様で、俺と香奈はみぞれを守る付き人で。
美羽が主人公らしく奔走している間に、みぞれが狙われて大ピンチ。
俺たちは脇役らしく頑張って、脇役らしく負けてしまって。
ここまでか、ってところで主人公がやってくる。
そんなお話だったら面白いな、なんて思っていた。
――パタン。
浴室の方から扉を閉める音。
みぞれが出たのだろうか。随分と早いな。
――ドタンッ。
……ドアを閉めた、とかそんな音ではなく、何かがか壁に激突したような、明らかに不吉な音がした。
『うぅ……。かずきぃー』
なんか、リビングのドアの向こうから情けない声がした。
それは確かに助けてやりたくなるような声ではあるのだが……あまりいい予感がしない。
『うぅ~……、かぁーずぅーきぃーっ!』
なんかもう、今にも泣きだしそうだった。
「まったく、何だって――………………お前、何してんだよ」
誘惑に逆らえず、ドアを開けてしまった俺を待っていたものは、水浸しの廊下と泡だらけの壁紙、それから頭を抱えてしゃがみ込むバスタオル姿のみぞれだった。
「だって……。目に、入ってぇ、ぐす。ぐしゃってね、なってね、壁があって、ドカッてなって――」
「あー、もういいから。とりあえず泣き止め」
怒る前に呆れてしまう。
泣きそう、というかもう泣いていた。
みぞれの名誉のために補足しておくと、涙の原因は頭から垂れる泡ではなく、壁にぶつけた頭の方だろう。これで名誉が守れたかは怪しいが。
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