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みぞれは猫だ。
懐いた人間と戯れているだけなんだ。
そうだ、これは猫なんだ。
俺は猫を洗ってやるだけなんだ!
「……色即是空、空即是色……」
「なにをぶつぶつ言ってるんだよぉ、かずきぃ。目、痛いんだから早く流してよぅ」
「お、おう」
どもってしまった。
いや、だって仕方ないだろ!
緊張するなってほうが無茶だって!
「……バスタオル、外したら怒るからな」
強がって言ってみたものの、
「なんでかずきが怒るんだよぅ。怒るのはむしろわたしでしょ?」
……ごもっとも。
「むしろ、かずきは喜ぶべきでしょ?」
「……バスタオル、外したら喜ぶからな」
「堂々と言われても、どうしようもなく気持ち悪いだけなんだけど」
シャワーの温度を調節する。
「かずきぃー、あついよぉー」
「我慢しろ」
熱めなのはちょっとした意趣返しだ。
軽く顔洗って泡を流してやりタオルで拭いてやる。目を閉じたままされるがままだ。容姿はどうしようもなく女の子なのに、挙措は本当に猫同然で、顔を熱くしている自分が恥ずかしくなってくる。
「もう痛くないか?」
「ん」
みぞれが目を開いて確認する。目に入っていた泡は流せたようだ。
「洗っちゃうから、目、閉じてろよ」
「ん」
他に返事のしようはないのだろうか。
取り立てて不満に思うわけでもなくなんとなしにそんなことを考えながら右手でシャンプーポンプを押し、軽く両手の上で泡だてて流水のような髪に指先を通す。髪に残る泡は細い糸の束を滑り落ち、色素の薄い髪をパステル調にぼかしていった。
「ねえ、かずき」
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