Second part:罪

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「………………」 「………………」  ……隼人に台詞を奪われた。 「……え、なに? ここまでやらせといて台詞とっちゃうの?」  息の詰まる沈黙の後、花梨が口を開いた。  ゆっくりと花梨の顔を覗き見ると、花梨は笑顔だった……人を殺せそうな笑顔だった。 「隼人くんはあれだね、ゴミだね、鬼畜だね、廊下で躓いて失血死すればいいよ」  言いながら花梨はローファーを脱ぎ、華麗なフォームで隼人に投げつけた。野球少年もびっくりな球(靴)速だ。……廊下で躓いて失血死ってどんな状況だよ。 「ははっ、いやあ、ヒーローっていうのは遅れて登場するものなんだろ? 僕もその伝統に則って、こうして見せ場だけ頂きにきた次第だよ」  顔面に革靴を乗せて笑うヒーローなんて、この世界のどこにもいねえよ。 「ところでおちびちゃん。廊下で躓いて失血死っていうのは一体全体どういう意味なのかな? 僕は寡聞にしてそのような事故の例を聞いたことがないんだけどね。凹凸の少ない廊下の表面で、なにをどうしたらそこまで深い傷を作れるのか甚だ疑問でね。著しく興味があるよ」 「うわわわわわわわあああああああああああっっっ!」 「あ、壊れた」  花梨のお頭がちょっとアレなのは今に始まったことじゃないんだから、流してやればいいものを。  壊れた花梨は無造作に拳銃を取り出して―― 「こんなこともあろうかと、弾は抜いておいたよ」 「いつの間に!?」 「マジシャンかよ……」  呆れてものも言えない。  この場合呆れているのは、隼人にあっさりと弾を抜かれてしまう花梨と、いくら花梨がバカだからとはいえ気づかれずに弾を抜き取ってしまう隼人の両方に、だ。  隼人の飄々とした態度を見ていると、そんな神業であっても何の苦もなくこなしてしまいそうで怖い。  拳銃での反撃を諦めて、徒手空拳で立ち向かおうとする花梨だったが、隼人に頭を押さえられてジタバタしている。  まるで大人と子供。
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