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入学初日の登校中。俺は一人、学校を目指して歩いていた。
美羽の計らい――あの従姉(いとこ)の頭にそこまで回る脳みそが入っているとは思えないが――だろうか、新居は学校から五〇〇メートルも離れていなかったし、引っ越してきたからの五日間ですでに道は覚えている。近場のスーパー、コンビニ、商店街に銀行。まだ建築後間もない外観のショッピングモール。途中で腹痛を起こした時のためのコンビニの位置や公衆トイレがある公園の位置も完璧だ。今年度から使われなくなったという町の隅に位置する廃校舎の位置まで抑えているのだから、日常生活には支障はあるまい。ましてや初日から遅刻などという失態を犯す心配もないだろう。
「おーい、シラタマ。重いから降りてくれよ」
呼びかけた相手の白い毛玉は俺の頭上でにゃあと一言だけ返し、そのまま一歩たりとも動こうとしない。誰に似たのか、人の頭の上で堂々とねるふてぶてしさは改善してほしい。
――シラタマは少々変わった猫だ。
まず一つ。
どうやら、シラタマには人の言葉が解るらしい。
らしい、というのはシラタマには人の言葉を話す能力は無いので、意志の疎通ができているのか否を確かめる術がない、という意味でだ。
ただ、意思が通じているとしか思えない仕草を――人間臭い仕草を、こいつはやってのける。こうやって頭の上から動かない、というよりそもそも飼い主の頭上に乗って悠々と移動するなんて、猫らしいとは言えない。
そしてもう一つ、シラタマには変わった特技がある。
学校まであと五分もあれば着いてしまう。そろそろシラタマに忠告した方がいいだろう。
「シラタマ、悪いがそろそろこいつらを――」
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