└0 たった一つの致命傷

6/10
前へ
/23ページ
次へ
 訳が分かりませんでした。何が起こっているのか、それを理解しようとする気持ちさえ湧きません。視界がどんどん遠退いていくのが分かりました。けれど意識は消えませんでした。痛みがそれを許さないのです。  リーダー格の後ろで、母が死んでいました。それはもう母ではありませんでした。真っ赤です。私も真っ赤でした。傷口からとめどなく流れる血が、私を母と同じにしてくれていました。私は泣きませんでした。未曾有の痛みと傷みを前にしても、私は泣きませんでした。転んだだけで泣いていたかつての私は、そこにはいませんでした。次から次へと起こる異常事態に、幼かった私の心は既に壊れてしまっていたのかもしれません。私は何を考えるのでもなく、かつての母と今の私の身体を見ていました。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加