第一章《始まり》

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   暗闇と静寂に包まれた細い廊下を幼い少女が走っていた。  腰まである長い黒髪を左右に激しく揺らし、額には大粒の汗を浮かべている。  少女は簡素なクリーム色のワンピースを着ていて、手には、大きなピンクのリボンのついた黒い猫のぬいぐるみをしっかりと握っていた。    どんな色も反射させない漆黒の大理石の床。床と同様漆黒の壁。それらを照らすのは、天井から控えめな淡い光を放つ小さなシャンデリアが点々と配置されているのみ。  ここはどこかの廊下のようだ。  少女の素足が大理石の床を蹴り、冷たい音を響かせる。  薄暗くて、近付かなくてはよく見えないが左右の壁には、等間隔に扉が存在している。  少女は左側にある扉のノブに手を掛け思い切り引く。  中は、落ち着いていて高価な印象を与える廊下とは真逆で、コンリートで造られた床と壁だけの部屋だった。
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