第一章《始まり》

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   『いない…』  少女は小さく呟いた。勢いよく扉を閉め、その勢いのまま向かい側にあった扉を開ける。  そこもまた、コンクリートで出来た床と壁だけの部屋だった。あまりにも殺風景すぎるその光景に目もくれず、扉を閉め、少し先にある扉まで走り寄り、扉を開ける。中には殺風景な同じ部屋が広がっていた。    少女は左右の扉を片っ端から開けて、突き当たりの見えないほど深い闇に包まれる廊下の先へどんどん進んでいく。  その足取りに迷いはないようだ。少女の顔からは焦りによる切迫感だけが感じられる。  何個目かの扉を開けると、先程から何度も見るコンクリートの部屋に一人の女性が座っていた。  少女はその女性に近付こうと部屋に足を踏み入れたが、女性の放つ異質な雰囲気に気付き、足を止めた。  女性は両腕で膝を抱えるようにして座り、頭を重く沈めていた。手には、硬質な鉄の鎖が幾重にもまかれており、足には頑丈そうな足枷がつけられているように見える。  
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