第一章

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 昼休みのざわめきの最中、一人読書に耽る葉月。その周囲では、同級生や他クラスの生徒が実に中学生らしく騒いでいた。 『わぁーっ! ちょ、バカ! やめろよ桐谷!』 『…………』  教室内に響いた叫び声を聞き、葉月は眉根を寄せた。別に賑やかなのが嫌いというわけではない。ただ、限度というものを考えて欲しい。  もやもやとした苛立ちを感じながらも、葉月はそれをどうこうするわけではなく、ただ我慢して読書を続ける。 『分かった、オレが悪かったからシャーペン構えんのはやめろ! 普通にこえーよ!!』 『……はあ』  結局、昼休みが終わるまで葉月の眉間には皺が寄ったままだった。 * 『それではHRを終わりにする。日直、号令をしてくれ』 『きりーつ、きょーつけ、れーい』  ありふれた終業の挨拶を交わし、中学生達は平日の大半を拘束する学校から解放される。  日頃から机の中に教科書の類を備えておく派の葉月は、軽い学生鞄を手に持ちイスから立ち上がった。 『如月せんせー、さようならー!』 『ああ、また明日な』 『先生ー。今日のプリントって提出いつですかー?』 『あー、次の授業だから……明後日、三時間目までだ。答え会わせも授業中に済ませるつもりだから、ちゃんとやってこないと当てられた時に大変だぞ』 『えー。先生、私のこと当てないでよー?』  教卓付近で仲良く話している担任とクラスメート数人の横をすり抜け、葉月は教室から廊下に出る。人口密度ならぬ生徒密度で言えば廊下も教室と大差無いが、しかし、動きがある分廊下の方が人混の中でも息苦しくない。
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