筒井筒

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引越のトラックが一台。 その後ろに佇む姿は、高く澄んだ空に消えてしまいそうなほど、儚く見えた。 「浩之……」 「ああ。見送り、出てきてやった」  それきり、お互い声が出なかった。 大人達は荷物を運ぶのに忙しい。 それが終われば、此処には居られないことは二人にも分かっていた。 "体に気をつけろよ"とか、 "高校で友達できると良いな"とか。  ありふれた別れの挨拶をすれば良いのに。 喉の奥に何かが詰まって、声にならない。  砂時計の砂が落ちて行くようだった。  ジリジリと時間だけが過ぎて行く。 「手紙」 「あ?」 「手紙、書いても良い?」 「なんで手紙なんか…」 ”その手に握り締めた携帯は 何の為にあるんだよ”、と言いたかった。  新しく高校生になるからと、買って貰ったばかりのソレ。 「…携帯買ったんだから、それ使えば良いんじゃねぇの?」 「ダメ。簡単に出せたら、なんでも送っちゃうから」   ”それで良いじゃん”  いつもなら反射的に出る言葉が、どうしてか出てこない事に苛立ちを覚えた。  相手は物心つくころからの幼馴染。  昨日なに食べただの、テレビの何とかが笑えただの、宿題が難しかっただの。 そんなのつまらない事を、散々話してきた幼馴染。  今更、そんなことを気にする方が、おかしいのに。 「浩之だって忙しくなるよ。 きっとメールだって、電話だって、面倒になる」  そんな今にも泣きそうな顔で。 「届くだけで良いの。 それだけで、私が満足するから。だから、手紙書くね!」  我儘なんだか、慎み深いんだか分からないことを言って。 「お見送り、ありがとうね浩之!」  手を振って、大人たちにの中に混じって行く。  それが幼馴染みとの別れだった。
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