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 合格発表は11月だったし、すでに入学手続きも終わっている。 「ど、どこどこ??」 「Tの建築学科」 「け、建築!?」 「お前こそ、どこ狙ってんだよ」 「え~と。ここに来る前は、薬学狙ってんたんだけど、・・・・ほら、薬学科って、お金かかるしさ」 「そうだな」  上に進むには金がかかる。  入学の手続きに、両親がいくら払ってくれたか、俺だって知っている。 それは、専門性が高くなれば高くなるほど、金額が跳ね上がって行くことも。 「だから、今の学校の先生にお願いして、ここから通えるところで、紹介して貰うつもり」  諦めたことも感じさせない笑顔に、胸が痛む。 「だったら、学校に行かなきゃじゃねぇの?  無断欠席は良くないだろう」 「でも・・・・・」  去り難いのは、こちらも同じなのに、素直になれない。 気詰まりな空気をかき消すように、ばぁちゃんの声が響いた。 「凛ちゃん、風邪引いてるんだから、早く中にお入り~」 「え?私、風邪なんか」 「いいから、おいで~」  ばぁちゃんの意図が読めた。   嗚呼、ホントに人がよすぎるよ、ばぁちゃん。   中に入ると、温かい朝食が並んでいた。 焼き鮭に、ご飯とお味噌汁。 旅館にでも泊まらないかぎり、ウチでは並ばない朝食だ。 「昨日、バスの運転手さんに目撃されてるんですけど…」 「いいから、いいから。 運転手さんはね、ちゃんとプライバシーは守ってくれるよ」 そうか。 昨日の粋な計らいと良い、この地方のバスの運転手は、正義の味方なのか。 ばぁちゃんが漬けたと云う沢庵を齧りながら、バカなことを考えていた。 「もう少ししたら、陽子も帰ってくるから。ちゃんと話すんだよ? 言いたいことが、あるんだろう?」 「おばあちゃん……」  感動した凛の眼差しが、再び潤む。 「それに、凛ちゃんのその顔じゃ、学校に行ったって、逆に心配されるよ」 「へ?」  確かに。 凛の目は誰が見たって「昨日たくさん泣きました」と、雄弁に語っていた。
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