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一度ぐちゃぐちゃになったソレを丁寧に伸ばして、送り主の住所をにらみつける。
「なに、勝手に納得してんだよ!ばか凛!!」
そのあとは夢中だった。
財布を持って、ジャケットを羽織って、今日届いたばかりの手紙を持って、駅まで駆け出した。
バイトで稼いだ金をおろし、携帯で乗り換えを検索し、新幹線に乗り。
検索の結果、到着するのは9時頃。
駅からどれくらいかかるか知らない。
バスか、最悪タクシーか。
それでも駅について、人に聞けばいい。
”無計画”
そんなことは、わかってる。
ただ、なにかに突き動かされるみたいに、イライラと車内のデジタル時計を睨み付ける。
あの時、ちゃんと携帯のアドレス聞いておけば良かった。
あいつが言わないなら、こちらから聞けば良かったんだ。
そうだ、最初から。
あの時から、あの、引越しの日から既に、それまでの俺たちと違ったんだ。
頭で考えて喋るなんて、器用なことしてこなかった。
思ったままをズバズバ言って、時には喧嘩して、喋らないときだってあった。
別れの挨拶なんて、本当はしたくなかった。
だから言えなかった。
なんで引越すのか。
なんで返事がほしいと言ってこないのか。
なんで遠慮なんてするのか。
あいつだって、あの時に、泣けば良かったんだ。
目を真っ赤に腫らしてたくせに、最後まで泣きじゃくることもなく、
『お見送り、ありがとうね浩之!』
本当に言いたいことは、違ったんじゃないのか?
”両親が離婚して”
”母の実家で暮らしていて”
ってことは、お前、また転校したんだろ?
なんで悲しいとか、寂しいとか、言わないんだよ。
自分がどうしたなんて一切書かない。
お前が書いてくることは、すべて周りの状況ばかり。
書いたって冗談みたいに誤魔化して。
”大丈夫”
「ばか野郎」
じゃぁ、この手紙はなんなんだよ。
「…気づかないとでも思ったのか?俺は、お前の幼馴染なんだよ!」
小さなシミは、きっと涙の跡だ。
泣き虫な幼馴染が、泣きながら書いた跡だ。
手紙を握り潰してしまわないように、手からは力を抜いて。
かわりに、ぎりっと、奥歯が擦れる音がした。
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