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7.ラミーニャ
「ここで、いいか。」
森の中。ライナはガイラスに優しくおろされた。ビンセントは止まるときにまたしゃっくりに邪魔されて転んだ。
ライナはビンセントが起き上がるのを手伝って顔を上げると、ガイラスがむすっと地面に座っていた。対照的に立っているビンセントの表情に笑みが広がる。
「あな・ヒッ・はなぜこ・ヒッ・・・」
「うぜーな。さっさとこれで治せ。」
ガイラスは口笛とともに金糸を作り出してビンセントに与える。
「あいつの弱点の一つさ。完全にタイミングを奪われて魔術も作れなければ武術もだめ。戦力はシンシア以下だ。」
ビンセントが一生懸命タイミングを計らってしゃっくりを治そうとする間、ガイラスが聞いてもいないのに言う。
「あなたはなぜここにいるのですか?」
ビンセントがやっといつもの調子に戻ったが、その目はいつもと違って冷ややかで、ガイラスを見下している。
「助けられといて、その言い方はないんじゃないか?」
ビンセントは憎々しげにガイラスをにらんだ。ライナはそのビンセントの表情に驚く。ガイラスといるときのビンセントの様子を聴いてはいたが、それでもビンセントは仏のような男だと信じていた。
「先ほども言ったように、貸し借りは無しということに・・」
「俺、思い出したんだけど、王城で俺はお前を助けたよな。」
ビンセントが不思議そうな顔をしたので、ガイラスはニタニタ笑いながらギュールに目を向けた。ビンセントとギュールがはっとする。ライナの知らないところで何かがあったらしい。
ビンセントは黙り込んで、悔しそうに唇をかむ。
「でも、今はそんなことどうでもいい。」
ただ、ガイラスはそれ以上強気な態度には出ず、ビンセントと同じ悔しそうな表情で地面をにらみつけて話を続ける。
「ディランをジュリーのところに渡すのに成功した。でも、クレアじゃ黒魔術は取り除けないだろう。それに、黒魔術以外でディランに危険が迫っている。見張りが付いている俺にはディランは守れない。」
ガイラスはそこで言葉を切った。『ディラン』というときのガイラスの表情はなんとも痛ましく、自分の無力さを感じているらしい彼の姿は、話に聞いていた彼のイメージとは全く異なっている。
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