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ブレッドはこちらを冷ややかに見下し、このドリルという男は嫌な笑みを浮かべてこちらを見てくるが、ビンセントはその笑みの裏を考えもせずディランのほうを見た。
ディランはじっとライナの方を見ながらも、時々リークのほうに視線を移していた。彼のためにも早く逃げなくてはならない。
ビンセントの視線に気づいたドリルとジェームズがディランを見る。
「今はビンセントのことよりラミーニャの娘の情報を持つこの少年のほうが重要ではないかと思いまして。」
その視線に向けて放たれたディランの言葉にビンセントはライナのほうを見た。ライナはうつむいている。うすうす考えてはいたが、まさか本当にそうだとは思っていなかった。
ディランはライナの前で座ると指を口につけ魔術を唱える。
「大事な少年ですから、傷つけてはいけないでしょう?」
ディランはライナの腕をもう一方の手で触れて金糸を取り出す。ビンセントがライナにかけた治癒魔術である。
その金糸が取れるとライナの腕に傷が再び現れた。毒はなかなか直らない。だがディランの治癒魔術はビンセントのものを超える。
ただしディランには治癒と防御の魔術しか使えない。
魔術にはいくつもの種類があり、普通の魔術師は無性金糸を作っていろいろな種類の魔術をかけられるが、無性金糸や金糸自体作りにくい体質の人もいる。そういう人は攻撃魔術には攻撃魔術専用の、防御魔術には防御魔術専用などそれぞれの金糸を作って魔術をかけることになる。しかしこの金糸は途中で違う種類の魔術に変えることができないので、体力・精神力をより消費しながらも無性金糸を使うことが多い。
そんな中でディランは治癒魔術とそれに近い性質の防御魔術を極めていた。
ディランはライナにさらに近づき、その腕にディランが今作った治癒魔術をかける。
そのときビンセントのほうからはディランがライナに何か伝えているのが見えた。ライナがこぶしを強く固めている。ディランがその場をどき、ライナの顔が見えるようになる。ライナの顔は硬直していた。
「そういや、」
ディランが治癒魔術をかける一連の動きをじっと見ていたブレッドがしゃべりだした。
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