1.北地

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「さっきビンセントがこっちのガキの翼を消すのにさ、今ディランがやったみたいな金糸を取り出すんじゃなくて、魔術をかけたんだよ。」  ブレッドの言葉でディランがビンセントの失態を責めるようにこちらをにらんでくる。 「魔術をかけたのであれば何か仕掛けがあるかもしれません。」  ドリルがリークに近寄り、金糸を抜こうとする。ビンセントはもう隙を突くのをやめ、強行突破で逃げようとしたが、 「ビンセント、何かしたらこいつを刺す。」  ブレッドに悟られ、彼は剣でライナを狙っていた。即死じゃなければ治癒魔術専門であるディランが何とかする。そう考える彼はビンセントが動けば本当にライナを刺すだろう。  口に指をつけたディランとビンセントは目を合わせ、何もしないように目だけで伝える。ディランには何もできない。  何とか伝わったらしくディランはもどかしいような表情になった。その顔がビンセントの心を締め付ける。  ドリルがリークの体から一本の金糸をつまみ、引っ張った。  ぶわっとリークの頭の天辺から足先まで、全身から金糸があふれ出し、一瞬彼の姿が見えなくなった後、その金糸を突き破って白い小さな生き物がディランに激突した。  きゅうきゅう  かわいらしい泣き声をあげながら、そいつがディランの頬をなめる。  全身真っ白な産毛に覆われ、四本の足に背から生える二つの翼、まだ小さくかわいい牙とつめを持つもの。 「ホワイトドラゴンの子供?!」  そこにいた王国政府の誰もが驚きの声を上げ、ライナもリークとビンセントを交互に見つめる。ブレッドの剣はあらぬほうを向いた。  今がチャンスだった。 「―――!!」  ビンセントは叫ぶ。ビンセントの口から飛び出した短い金糸は瞬間的に小さな爆発を起こし、ここらいったいを真っ白い煙で 包み込む。  ビンセントは急いで魔術を飛ばし、足を縛っているロープを切る。指で方向を定められない分コントロールが落ちて足を少し傷つけたが、動くのに支障が出るほど大きい傷ではない。  ビンセントはまだ腕を後ろ手に縛られたまま、ブレッドがいたほうに突進する。さすが武術師といえようか、ビンセントの殺気に気づきビンセントに向けて剣を振り下ろした。
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