1.北地

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 ビンセントはいつ、彼女のことに気づくだろうか、いや、きっと気づかない。ビンセントとはそういう男だ。 「楽しくなってきたか?」  ジェームズがディランの頭に手をのせてきた。その手は暖かい。 「はい。」 「そりゃ、よかった。」  ジェームズにぽんぽんと叩かれたディランの頭にまたリークの姿が思い起こされた。前よりも少し大きくなっていた体に重み。会うのはずいぶんと久しぶりなのに、リークは自分を忘れてはいなかった。  やっぱりここに来てよかった。 「リーク。」  その名をつぶやくディランの表情は、自分でも気づかないうちに優しい微笑みを浮かべていた。
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