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1.北地
ビンセントはフレンシア王国のほぼ最北端に位置する町を目指して、道なき道を歩いていた。八歳のときにクリント師匠に弟子入りしてから、もう十六年もたっている。
「なぁ、ビンセント。リークは腹が減ったぞ。」
十五、六歳の白い髪をした少年・リークがビンセントのすそを引っ張る。
「もうすぐ町ですから、それまで我慢してください。」
じっとビンセントの目を見つめて空腹を訴えるリークの白い頭をビンセントはなでた。今の連れはこのリークだけである。リークはかわいいもので見つける虫たちを追いかけながらも、素直にビンセントについてくる。
この十六年間で世界は大きく変貌した。
フレンシア王国にとって何よりも大きな事件だったのは十年前、年若い王から二人の王子が生まれたことだ。どちらも同じ母親から生まれれば問題はなかったのに、彼らは異母兄弟だった。さらに悪いことに、一人は有力上流魔術師家・ワトソン家の娘で、もう一人は有力上流武術師家・ワグナー家の娘だった。これにより魔術師と武術師の間に決定的な溝ができ、国中で紛争が起こるようになった。
そして二年前、ラミーニャの門の出現により、門を狙って魔術師と武術師がぶつかった。クリント師匠とドランさんは開かれてしまった門が世界に影響を与える前に封印した。しかしそれと一緒にクリント師匠も封印され、ドランさんにも魔術がかけられ、封印が解かれるまでずっとこの封印を守る感情のない兵士になった。
ビンセントはクリント師匠とドランさんを助け、門を元に戻すため、【ラミーニャの娘】を探しに旅に出た。
ラミーニャの娘とは、普通には動かすことのできない魔界とをつなぐ門を簡単に開け閉めできる、胸元に独特の痕を持つ女性である。門を元に戻すためには彼女の力が必要なのだが、もう二年も経ったのにビンセントはまだ彼女を見つけられないでいた。
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