6人が本棚に入れています
本棚に追加
そのラミーニャの一戦のあと、魔術師と武術師の戦いはいったん休戦になる。東のグレース山脈を挟んで隣国に位置するガンディール王国が攻撃を仕掛けてきたからだ。そういうことは何度かあり、いつもなら簡単に追い返せたのだが、今回はそうはいかず、国内で争っている余裕などなくなったのだ。
ただ、一年も経つころにはガンディール王国内で反乱がおきて戦争は終わり、魔術師と武術師間の争いは休戦のまま治まった。
反乱が起きたガンディール王国のほうは、そのあと半年もかからずに反乱軍が完全勝利して、魔界の美しい白い花・リグリアをシンボルにしたリグリア王国へと変わった。
そして今ビンセントと同様にラミーニャの娘を探し始めた王国政府から、ラミーニャの娘について情報を持っている者が北地にいるという話を盗み聞いて、ビンセントは北地までやってきていた。
指名手配にさえなっていなければ、堂々と舗装された道を歩けるのだが、王国政府への協力を拒否し、またいろいろと問題を起こしてしまったビンセントにはまとわりつく草木を払いのけて進むしか道はなかった。
「こっちだ!逃がすな!」
急に遠くから聞こえた声に、ビンセントはリークをかがませて自分も身を縮めた。
耳を澄ますと、草を駆け抜ける音が一つ、まっすぐこちらに向かってすぐそこまで来ていた。他のどやどやした騒がしい音はまだ遠くにある。
ビンセントはすぐに指を口に当て呪文をつぶやき、金糸で自分たちの周りを囲む。これで向こうからはビンセントたちを見ることはできない。
ザッ!
じっとしているビンセントたちの目の前を、生い茂る草を掻き分けて一人の少年が駆け抜けようとした。しかし少年の腕に矢が直撃し、地面に倒れこむ。
「うっ、く・・」
少年はうめきながらも、逃げるためにまた立ち上がろうとする。
その痛ましい姿を見ていられなくて、ビンセントは少年を自分の魔術の領域内へ引き込んだ。予想以上に彼の体は軽い。
最初のコメントを投稿しよう!