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「なっ・・」
「静かに。」
驚きに声を上げようとした少年の口をふさぎ、耳元でつぶやく。少年は暴れたりはせず、その体はどうしようもないほど震え始めていた。はじめは自分のことが怖いのかとビンセントは思ったが、どうやら彼の腕に刺さっている矢は毒矢だったようだ。
ビンセントはさらに魔術を重ね、自分たちの存在を完全に消す。
そのうち少年を追っていたらしき男たちもやってきた。彼らの服はフレンシア王国政府の紋章がついた王国政府の制服である。
少年はビンセントの服を引きちぎれんばかりに強く握るが、すぐにぐったりと倒れた。ビンセントは男たちをじっと見つめた。その雰囲気を悟ってか、リークがぴとりとビンセントに体を沿わせてじっとする。
ここで少年が倒れたと確信していたらしき男たちは、少年がいないことに焦ってまわりを必死になって探す。
その中に一人、ビンセントは知り合いの魔術師を見つけ、飛び出そうとしたリークをあわてて気絶させる。誰にも気づかれなかった、と思った時、
「・・・」
ビンセントの知り合いの魔術師に近づいてきた、細長い棒を持った男がこっちの方をじっと見てくる。クリント師匠に似た端正な顔立ちのせいもあって、ビンセントの背を冷や汗が流れる。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない。」
知り合いの魔術師の問いに棒を持つ男はにっこりと答えて、男たちは山のさらに奥の茂みへと入っていった。
用心のためにしばらくはそのままで待ち続ける。
「もう、平気ですね。」
ビンセントはリークを起こす。リークは起きるとすぐに魔術の領域内から飛び出し、頭を振って体を伸ばした。
ビンセントは少年を横たえる。正面からよく見てみると、その少年は少女のようなかわいい顔をしていた。
「リーク、今日はここらで野宿しましょう。」
ビンセントはリークにそう告げてから、少年の傷の手当を始めた。
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