プロローグ

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プロローグ

「ビンセント、そこに座りなさい。」  きれいに整った顔をした男が少年を自分の前に座らせた。男の隣には剣を背負った男が立っている。 「今日からあなたには私の弟子としてここに住んでもらいます。これからは私のことを『師匠』と呼びなさい。」 「僕もここで暮らせるの?」 「ええ。ですが、あくまで弟子としてですので、早速今から講義を始めます。質問があるとき以外は黙って私の話を聞きなさい。」 「はい!クリントさんじゃなくて、師匠!」  無邪気な少年の姿に立っている男は微笑む。 「この世には【人間界】と【魔界】があることは知っていますね。」 「はい!」 「この二つの世界はこの国【フレンシア王国】の最南端に位置する【ラミーニャ】という町にある門でつながっています。ただ普段は姿を隠し、定期的に現れるだけです。他にも世界中に魔界とをつなぐ門がいくらでもありますが、それらの門はティーポットのふた程度でしかなく、世界的な影響はありません。しかし、【ラミーニャの門】は巨大で、姿は見えなくても常に隙間を開けてそびえ立っており、その隙間から魔界の空気が人間界に入り込んでいます。そしてその魔界の空気を凝結し、さまざまな力にして現すことを【魔術】といい、それを行なう者を【魔術師】といいます。」  座っている男は口に指を当て、呪文をつぶやく。魔界の空気が凝縮された金の細い糸【金糸(きんし)】が口から現れ、呪文のとおりに文字を描く。指を口から離すと金の糸はその指についていき、男が指した場所に飛んでそこに美しい白い花が咲いた。 「師匠のような大魔術師に僕でもなれるの?」 「もちろんです。私が教えるのですから。」 「おい、そうじゃないだろ。」  立っている男があわてて口をはさんだ。 「大事なのは自分を信じることと魔界を理解すること、だったかな。それと俺たち【武術師】を敬うことさ。」  立っている男は続ける。
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